明治維新当初の京都府と京都裁判所の対立を舞台とした裁判小説。江藤新平自身については「プロローグ」でふれるだけで、後は「小野組転籍拒否事件」から始まった京都府と京都裁判所の権限争議、司法と行政、その背後の江藤一派と長州閥の争いが描かれている。よって表題から、いわゆる「明治六年の政変」で下野した江藤新平が佐賀の乱で処刑されるまでの経緯を描いた歴史小説を予想し期待すると肩すかしを食った感じになるだろう。発端は京都の豪商「小野組」の七代目と総支配人とが連名で京都府庁に転籍願を差し出したことによる。名目は「商業の便宜のため」とあるが、実際は京都府からの「御用金の放棄」だった。京都府が許可を引き伸ばしたためにこれを不当として小野組が京都府を相手取って京都裁判所に提訴した。わが国最初の行政訴訟である。やがて行政の京都府と司法の京都裁判所の権限争いとなり、ついには京都府知事と参事が被告として法廷に立つところまで発展した。岩倉使節団が訪欧中に留守政府内では大蔵省対司法・文部省の対立が表面化。司法卿江藤新平一派は「山城屋和助事件」や「尾去沢銅山事件」などで長州閥の不正を暴き、政府の主導権を握ろうとしたが、征韓論が敗れて西郷隆盛とともに江藤も参議を辞職、京都の権限争いも木戸孝允の策動による天皇の特命によって槇村正直参事を無罪とし京都府が勝ったかに見えた。ところが、近衛兵の多くが西郷に従って辞表を提出してその存立が危ぶまれたおり、元は司法省に所属し今は内務省の下にある警保寮(警察組織)において、槇村正直参事一人に寛大であるのはいかがなものかと声が上がった。内務卿大久保利通はこれを無視できず裁判官に再び有罪を申し渡すようにさせた。手下の槇村正直が拷問にあわぬ様、病身をおして奔走する木戸孝允の姿が印象的。